自分の仕事の
成果を必ず
農家さんに届けたい
研究所 研究技術チーム
Sさん
2017年入社
・勤務地 栃木県那須塩原
・最終学歴 名古屋大学
小さい頃は医者志望だったのですが、さすがに難しい世界ですから浪人しました。そこで名古屋大学の農学部に入学したのですが、最初は"仮面浪人"のつもりでいずれ医学部に転学しようかと考えていたんですね。でも入ってみると「農学」というものが面白くなってきました。先生の中に「農学は世界を救う」と語る熱い人がいらっしゃって引き込まれていったわけです。その先生は、農学で世界を救うためには「冷静なパッション」が必要だともおっしゃっていました。科学的かつ理論的で冷静な頭を持ちつつも、農学に対する熱い想いを持ち続けていくことが、農学の発展にとても大切なんだと。
結局、名古屋大学の農学部で博士号取得まで9年間勉強しました。4年で卒業することも考えましたが、恩師の勧めや協力もあって行政機関からサポートを受けつつ、研究室で牛やヤギの繁殖について研究していました。「冷静なパッション」という言葉が、ここまでやらせてくれたように思います。
実家の目の前に当時の伊藤忠飼料の飼料工場があって、配属は違うけれど、小さい頃見ていたあの会社で働いているんだなと思うと、なにか縁のようなものを感じますね。
入社してすぐは本社研修、その後新潟県にある親鶏/PSを生産する株式会社I・ひよこ、続いて岩手県にあるアイ・ティー・エス ファーム株式会社の東北事業所で約半年間の研修を経て、9月から那須の伊藤忠飼料研究所、研究技術チーム配属となりました。現在は研究所で牛用飼料の開発や牛個体を使った飼育試験を行いながら、各支店営業担当からの問合せ対応などをやっています。
単純な比較は難しいのですが、伊藤忠飼料の入社後研修は肌で感じつつも実学を伴っていて、しっかりしていると思います。
入社後の研修は、大きく3つのブロックに分かれています。入社直後は伊藤忠商事グループの新入社員が対象となり、伊藤忠商事グループの構成や各社の役割といった会社に対する知識に加えて、ビジネスマナー、ものの考え方や仕事の進め方など社会人としての基礎を学びます。東京都の伊藤忠商事本社ビルで4日間おこなわれます。配属後、お客様と会う場面も多々あるため、これらの研修はいまだに大変役立っています。
2つめは伊藤忠飼料本社で、畜産飼料や畜産物を扱うチーム、水産飼料を扱うチーム、鶏卵を扱うチームなどの部署ごとに10日ほどの研修を受けました。各役員・課長から課員までがリレー形式で講義を担当し、現在の飼料業界の概況がどんな感じであるとか、伊藤忠飼料の業務内容について説明を受けます。
3つめは、那須の伊藤忠飼料研究所で10日間ほど、各畜種について、基本的な飼養体系や動物の取扱い方について体験する研修があります。私は大学で動物と接していましたが、同期には農学と無関係であった文系出身の人もいます。動物の取扱い経験のない同期たちは動物にどう触れるか、抱え上げるときの力加減はどうかということがわからず、ちょっと苦労しているところもありましたね。だからこそ、こうした研修に意味があると思いますし、動物と接した経験の有無は入社には関係ないということでもあると思います。
これらの研修を終えると、だいたいゴールデンウィークになります。ゴールデンウィーク明けからは、先ほど出ました事業会社で3ヶ月ほど農場実地研修を行いました。
事業会社での農場研修では、I・ひよこが扱う親鶏、親鶏が産んだ採卵鶏を扱うアイ・ティー・エス ファームと順に見ていくことで、実際に作業をしながら鶏や卵の流通や仕組みを肌で体験することができました。
大学では牛やヤギが相手でしたから、鶏と接する体験は新鮮でした。防寒対策で火を焚くといったことは、鶏特有の世話の仕方で、牛やヤギではまずやりません。数千羽単位のワクチン接種や、ロット単位での管理法などは、現場に出てみて初めて目の当たりにできるものだと痛感しました。
現在は牛を担当していますが、所属部署のミーティングで、採卵鶏に関する話が出ても、農場研修で体験したことでイメージしやすくなっています。実地研修は勉強になったという思いと同時に、面白かったなとも感じています。
朝は8時過ぎに出社してメールチェックの後、一日の大まかな予定を立てます。それから農場に出て牛の餌箱の状態をチェックします。食べ残しがあるのか、あるいは食べきっているのか。これが、牛の健康状態の重要なバロメーターです。40~50頭程度を見回ります。8時半に給餌になるので、その前に状態チェックの意味で見ておきたいということもあって8時半前後には巡回するようにしています。その後、10時前後に事務所に戻って、実験や書類作成などをおこないます。
午後は、試験準備や牛の状態を観察するために、再度農場に入ります。夕方の餌は15時半なのですが、この時間にギリギリで空になったのか、それよりも早く空になっているのかを見るために、少し早めの時間から餌箱を確認して回ります。手が空けば、事務所での実験の続きに戻ります。15時半に様子を見に戻って、という感じです。
餌の食いつきが悪い、あるいは、餌やり時に普段は立っているのに座っているといったときは、ちゃんと調べてみるとやはり熱を出していたり不調を起こしていることが多いです。牛から不調を訴えてくれるわけではありませんから、早めにこちらが感知することが大事です。
ここまでの時間では農場と事務所の行き来が1時間程度の間隔で細切れになりますので、まとまって実験・作業を行えるのは夕方以降になります。実験の内容としては餌を変えたときの効果をみるために、牛の血液やルーメン液(第一胃の液)を検査したり、子牛用ミルクの開発に向けた予備的な分析や実験などです。
仕事の内容自体は季節によって変わることはないのですが、那須も冬には結構な雪が降りますので、午前中の実験時間が雪かきになってしまうこともありますね。私は九州出身で大学も温暖な名古屋でしたから、人生で初めて雪かきというものを体験しました。
どんな仕事でもそうですが、技術や知識はあったほうが近道なのかもしれません。でも持っていないとダメだと言うことはなくて、あとからでも追いつくので十分なように思います。必要なのは畜産に携わりたいという強い気持ちではないでしょうか。きっとこの仕事を成し遂げていくのに必要なのは、ある意味「冷静なパッション」ですね。
私自身、仕事をしながら、自分の仕事の内容や成果を必ず農家さんに届けたいと思ってやっています。研究のための研究ではなく、畜産のための研究を目指していますし、それが最終的に畜産農家の皆さんの役に立つと思っています。学術的というよりは、「商業的な研究」という表現が近いかもしれません。
もうひとつは、たしかに生産物を食すために育てるわけなんですけど、その動物たちの命の尊さ、尊厳を大切にするということだと思います。動物は工業製品ではありません。餌箱を見て回り、一頭一頭の体調を把握する。それは品質管理でもありますが愛情でもあるわけです。
動物と農学(畜産学)を愛せる人が後輩として入社してくれれば頼もしい仲間になってくれるかと思います。